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広島高等裁判所松江支部 昭和46年(ネ)96号 判決

控訴人

檜威

右訴訟代理人

油木巌

被控訴人

高石松枝

右四名

訴訟代理人

梅林卯三郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一原判決の理由中、第一、二項を引用するほか、次のとおりである。

二被控訴人らの取得した損害賠償請求権の額について以下検討する。

1  亡高石茂の逸失利益

〈証拠〉を総合すれば、亡茂は本件事故当時国鉄後藤工場に勤務し、月給金四万四四〇〇円の支給を受け、昭和四二年度の得べかりし給与額は諸手当、賞与を含めて金七九万三一一四円であつたこと、同人は死亡当時三九才であつたこと、同人は国鉄に勤務する傍ら父及び妻と共に農業に従事し、自己の生活費の支弁には農業による収入で十分であつたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

従つて亡茂は、本件事故にあわなければ被控訴人の自認する定年である五五才に達するまで一六年間にわたり毎年右七九万三一四四円を下らない収益を挙げ得たものというべく、右利益につきホフマン式計算法により民事法定利率年五分の割合による中間利息を控除した場合、本件訴状送達の日であることが記録上明らかな昭和四三年六月一三日現在の価額は、九七二万七四八一円(円未満切り捨て)となる。

2  過失相殺の主張について

控訴人は、亡茂は本件事故当時飲酒酩酊していた過失がある旨主張するが、これを認めるに足る証拠はない。

3  相続及び保険金の弁済充当

被控訴人らが亡茂とその主張のとおりの身分関係にあつて、同人の死亡によりそれぞれ法定相続分に応じて同人の控訴人に対する損害賠償請求権を相続したことは当事者間に争いがない。

従つて被控訴人高石松枝は前記逸失利益の現価の三分の一に当たる金三二四万二四九三円、他の被控訴人らはそれぞれその九分の二に当たる金二一六万一六六二円の損害賠償請求権を相続により取得したものというべきである。

被控訴人らが自賠責保険金一五〇万円を受領し、これを法定相続分の割合に応じて分配したことは被控訴人らの自陳するところであるから、これを控除すると、被控訴人高石松枝の損害賠償請求権は金二七四万二四九三円、その他の被控訴人らのそれはそれぞれ一八二万八三二九円となる。

4  損益相殺について

〈証拠〉によれば、被控訴人高石松枝は昭和三年三月二一日生れであり、夫茂の死亡により年額一一万〇一一二円の遺族年金を受給することになつたことが認められる。

しかし、国鉄職員について適用される公共企業職員等共済組合法三〇条には、国鉄共済組合は、遺族年金等の給付事由が第三者の行為によつて発生したときは、当該給付事由に対して行つた給付の価額の限度で、給付を受ける権利を有する者が第三者に対して有する損害賠償請求権を取得する旨が、また同条二項には、給付を受ける権利を有する者が右の第三者から損害賠償を受けたときは、組合はその価額の限度で給付を行う義務を免れる旨がそれぞれ定められているのであるから、遺族年金の受給権者としては、その自由な選択によつて遺族年金を受領することも第三者から損害賠償を受けることもでき、ただその一方を受けた時はその限度で他方を受けることができなくなるにすぎず、単に遺族年金の受給権を有するということが直ちに第三者に対する損害賠償請求権の減額事由となるものではない。そうして被控訴人松枝が夫茂の死亡後今日までに受給できた年金を全額受領しているとしても、その受領額を松枝の前記請求権額二七四万二四九三円及びこれに対する各受給時までの遅延損害金額から控除した残額が原判決において右遺族年金による損益相殺の結果同女の損害賠償請求権として残存するものと認められた八九万九一〇八円を上回ることは明らかである。

なお、退職金は退職したことにより支給されるものであつて事故による損害を填補するものではないから、被控訴人らが逸失利益として将来得べかりし退職金額に相当する損害の賠償を求めているわけではない本件において、右損害賠償請求権の額から現実の退職金の額を控除すべきであるとする控訴人の主張は理由がない。

5  弁護士費用

本件口頭弁論の全趣旨によれば、被控訴人らは本件事故による損害を控訴人が任意に弁償しないため、弁護士に訴訟手続の追行を依頼し、着手金及び成功報酬として金六〇万円を法定相続分の割合に応じて支払う旨約束したことが認められるところ、被控訴人らの請求の認容額、訴訟の難易その他諸般の事情を考慮すれば、控訴人には右弁護士費用のうち被控訴人高石松枝に対し金一二万円、その余の被控訴人らに対し各八万円を支払わせるのが相当である。

三以上によれば、控訴人は被控訴人高石松枝に対し少くとも金一〇一万九一〇八円、その余の被控訴人らに対し各金一九〇万八三二九円及びこれらに対する本件訴状送達の翌日たる昭和四三年六月一四日から完済に至るまでの民事法定利率による遅延損害金の支払義務を負うことになる。《以下、省略》

(熊佐義里 加茂紀久男 小川英明)

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